優れた包丁とは

包丁の性能には切れ味の元となる硬度、靭性(ねばり)、耐摩耗性(永切れ)耐食性(サビに強い)があります。これらを高い次元でバランス良く満たしている包丁が良い刃物といえます。

そして、その優れた包丁を作るためには、良い鋼材、卓越した整形と熱処理技術、繊細で正確な研ぎが必要です。そのいずれかが不足しても良い刃物にはなりません。

鍛造

刃物をつくるシーンとして、刀をハンマーで叩いて鍛えるような手打ち職人を思い浮かべる方も多いと思います。鋼は熱して叩くことで粒子が細かく均一になり、強度が高く切れ味も滑らかになります。
多くの包丁の工場では、鉄柱が垂直に打ちつける機械で整形しています。写真のようなハンマーで小さな四角い金属片を叩いて薄く伸ばし、包丁の形にしていきます。そのような作り方を鍛造と言います。


一方、鉄板を刃物の形に型抜いただけのプレス加工品があり、それらは鍛造品よりも安価で劣ります。

つまり、良い包丁を選ぶなら鍛造がお勧めです。

因みに鍛造に対する製法に鋳造があります。これは型に溶かした金属を流し込んで整形する技法ですが、金具や鉄瓶など刃物とは違う製品に多く使われています。

鋼材の種類

一般には切れ味が良いが錆びるハガネ(炭素鋼)か、錆びにくいが切れ味が劣るステンレス鋼かと言われますが、それもピンキリで色々あります。
高い鋼材ならなんでも良いとは言い切れず、一長一短がありますので使用目的や好みによって選びましょう。

炭素鋼

※鉄に少量の炭素を混ぜたものが鋼です。一般にハガネというと炭素鋼を指すことが多く、平均的にステンレスよりも切れ味がよくて長切れもします。硬いため欠けやすく錆びるのが難点です。

白鋼 砂鉄による炭素鋼で不純物が少なく純度が高い順に白1.白2、白3などの等級があります。腐食に弱いが切れ味は最高です。

日本鋼 単に日本製の鋼材という意味ですが、主に全鋼のものに刻印されている。

合金鋼

※炭素鋼にクロムとタングステンを混ぜて摩耗性と粘りを出した高級鋼で炭素鋼よりも価格は高めです。切れ味は良好ですが炭素鋼と同様に錆びやすいのが難点。尚、クロムを含む合金鋼という点ではステンレス鋼と似ていますが、刃物としては防錆性の有無で分けられています。

青鋼 含まれる炭素、クロムなどの量により青紙1号、2号、青紙スーパーなどの等級があります。

ステンレス鋼

※炭素鋼にクロムを一定(10.5%)以上含有した合金がステンレス鋼です。酸素と反応し透明な皮膜を作ることで腐食し難い鋼材です。プロの料理人も現在はステンレスを使うことが多く、切れ味も炭素鋼に匹敵する、またはそれ以上のステンレス鋼もあります。

ステンレス鋼(標準) クロム12%以上加えたもので不動態皮膜により錆に強い(耐食性)。切れ味に定評のあるV金10号(VG10)、銀紙3号、AUS8(モリブデン鋼)などが有名です。

粉末鋼(ハイス鋼) 粉末にしてから成形する粉末冶金という特殊製法によって作られた鋼。緻密な金属組織により強靭で耐摩耗性に優れた最高級ステンレス鋼。優れた硬度と切れ味で人気のZDP189、スーパーゴールド2(SPG2)、SRS15などがある。

ダマスカス鋼 種類の異なるステンレスを何層にも鍛造することで木目のような模様を作り出している。層の数は数層から何十層にも及ぶものあり、その模様は多彩です。海外では特に人気で刃物の性能というよりデザインに趣が置かれています。


研ぎ

大工の世界では「穴掘り三年、鋸五年、墨掛け五年、研ぎ一生」という言葉があるそうです。研ぎは鉋の刃研ぎを意味していますが、包丁も整形などの加工は三年、研ぎ一生と言われており熟練を要します。

高い鋼材を使ってきちんと鍛造しても研ぎが駄目だと台無しです。包丁を良くするも悪くするも研ぎ次第なのです。

メーカーでは研ぎをする職人が不足しており、そのためか安価な包丁は砥石も使わずに自動研磨機(自研)や簡易なサンダーで処理したものも多くあります。
研ぎは刃先だけを尖らせるだけだと誤解されがちですが、歪を取ったり、全体の厚みを調整し食材を切った時の切り込み具合や抜けを良くする必要があります。

鍛造した包丁は一丁一丁異なり、砥石も研ぐごとに変化するため、その作業には経験と繊細な感覚が求められます。自研では大まかに削ることしかできないため、良い包丁を作るには技術のある職人が不可欠です。

新品の包丁は一見するときれいに仕上げて見えるので購入時は気づきにくいですが、研ぎが良くない包丁は砥石を当てるとすぐ分かります。良い包丁は使う人のことを考え、後々研いで長く使えるように作られています。具体的には全体に歪みや凹みが無くなめらかに薄く研ぎ上げられ、刃先は鋭い刃付けになっています。また瑕疵がないため研ぎやすく、メンテナンスもたいへん楽です。