包丁を使ううえで避けて通れないのが「サビ(腐食)」です。しかし、実はサビには「悪いサビ」と「良いサビ」があることをご存じでしょうか。

金属は酸素と結びつくことで酸化し、その結果としてサビが発生します。悪いサビとは、一般的にイメージされる赤くザラザラした赤錆のことです。赤錆そのものは研磨すれば比較的簡単に取り除くことができます。しかし、そのまま放置すると赤錆の下では腐食がさらに進行し、黒く変色した腐食層が形成されることがあります。
この腐食層は金属の内部へと徐々に侵食していくため、人間の病気に例えるなら「がん」のような存在です。放置すると刃が欠けやすくなったり、研いでも切れ味が回復しにくくなったりして、最終的には包丁の寿命を大きく縮めてしまいます。
一方で、黒く変色することから「黒錆」と呼ばれることもある酸化皮膜は、いわば「良いサビ」です。酸化によって形成された緻密な皮膜が金属表面を覆い、赤錆の発生を抑える保護膜として働きます。そのため見た目は黒ずんでいても、無理に磨き落とす必要はありません。もちろん、健康への悪影響もありません。

全体的にうっすらと黒っぽい、グレーがかったのが黒錆(良いサビ)
で、赤丸で囲った黒いシミは腐食層(悪いサビ)です。
実は、この酸化皮膜はステンレス鋼にも存在しています。ステンレスがサビに強いのは、鋼に含まれるクロムが酸素と反応し、透明で非常に薄い酸化皮膜(不動態皮膜)を形成しているためです。この皮膜は目には見えませんが、金属を保護し、赤錆の発生を防いでいます。
このように、包丁には同じように黒っぽく見えるものでも性質の異なる二種類の酸化があります。赤錆の下で金属を蝕む腐食層なのか、それとも包丁を守る酸化皮膜なのか。その違いを知ることは、大切な包丁を長く使い続けるための第一歩です。

