唐突ですが包丁はどこで買いますか?
全国的には鍋、ヤカンも扱う金物店はちらほらありますが刃物専門店は非常に少ないので、百貨店か大都市の専門店まで脚を運ぶ以外はスーパーやホームセンターで間に合わせる方が多いのではないでしょうか。
そのような量販店では刃物についての取り扱い方、詳しい説明を受けることなく価格と見た目でなんとなしに選ぶ方が大半だと思います。その結果、意図していないものを買ってしまったり、間違った取り扱いや研ぎ方をしてダメにしてしまうケースが多々あるようです。
そこで毎日多種多様な包丁を研いでいる研ぎ師の視点から包丁(家庭用)の選び方をお伝えしたいと思います。
手に馴染み歪んでいないものを選ぶ
新しく包丁を買っても手に馴染まないからと古い包丁を使い続ける方が少なくありません。宝の持ち腐れにしないために包丁は手にとって握りやすさや振りやすさを実感して頂くことが大切です。
また手打ちの刃物は高価なものでも歪んでいるものが少なくありません。曲がっていたり平面(ヒラの部分)などに歪みが無いかを購入前に確認することも大切です。
全鋼と割込なら割込がおすすめ
研師として特にお伝えしたいのがココです。
ステンは切れが悪く研げない?
昔から自分で研いでいる年配の方は特にステンレス鋼に対してネガティブな印象を持っている方が多いようです。
家庭用のみならず業務用でもステンレス鋼が主流になっていますが、実際のところ錆びやすい炭素鋼と比べるとステンレス鋼は研ぎにくく安価なものは切れ味や長切れなど性能面も劣ります。
そこで重要なのが全鋼と割込(合わせ)の違いです。
全鋼とはブレード全部が一枚の金属板で作られている刃のことを称します。木材に例えると一枚板のような無垢材、筆記具に例えればパステルのような構造です。
それに対して割込(合わせ)というのは薄い鋼を左右から軟らかい地金で挟んである構造の刃のことを指します。木材に例えるとベニア材のような積層板で筆記具に例えると鉛筆のような構造です。ちなみに近年人気のダマスカス包丁も合わせです。

ステンレス鋼は同じ値段なら割込がオススメ
無垢材というと聞こえは良いですが、全てが鋼の全鋼と薄い鋼を使用した割込では全鋼の方が鋼材コストが掛かかるため、仮に同じ5千円、1万円の包丁だった場合は全鋼は安い鋼材を使わざるを得ません。
逆に割込はその分ワンランク上の鋼を使用できますので切れ味も上です。さらに表面の地金は軟らかいので研ぎやすいという利点もあります。
【注意】割込は片刃に研げない
割込包丁のデメリットをひとつ挙げるとすれば両刃にしか研げないという点です。全鋼であれば片刃に研いでも刃は付きます。しかし割込は片側だけ研ぐと地金が鋼を覆ったままになるので全く切れなくなります。構造を知らずに片側だけ研ぎ続けた結果切れなくなったと持ち込まれる方が非常に多いです。

全鋼を選ぶなら炭素鋼
それでも全鋼という方は炭素鋼(ハガネ)が良いでしょう。錆びやすいのでお手入れは気を使いますが、切れ味は確かで片刃にも研ぎ易いです。
出刃、柳刃などの和包丁は「合わせ」が主流

魚を捌くのに欠かせない出刃包丁や柳刃包丁は、昔から「合わせ」の構造が一般的です。合わせ包丁は、鋼の上に軟鉄の地金を接着した二層構造になっており、研ぎやすく切れ味に優れているうえにコストも抑えられています。
一方、全鋼の包丁には炭素鋼の「本焼」とステンレス製のものがあります。「本焼」は最高級とされるものの、価格が高く扱いも難しいため、一般的な使用にはあまり向いていません。ステンレスの全鋼包丁は、安価なものが多いですが、一部には高品質なものもあります。
合わせ包丁の課題
片刃の和包丁は、異なる金属を二層に組み合わせているため、歪みや狂いが生じやすいという特徴があります。職人は精度を高める工夫をしていますが、使用するうちに変形することもあり、使いにくさや研ぎにくさの原因となることがあります。
特に柳刃包丁は、薄くて細長いため狂いやすく、歪みや反りが目立ちやすいです。柳刃包丁は刺身などの柔らかい食材を切る用途が中心で、研ぐ頻度が少ないため、ステンレスの全鋼包丁のほうが扱いやすいと考える人もいます。
また、和包丁は堺(大阪)の伝統工芸として多く生産されていますが、昔ながらの製法の継承や後継者不足などの影響で生産量が減少しており、価格が年々上昇しています。
錆と使用頻度
一般家庭では出刃包丁や柳刃包丁を使う頻度がそれほど多くなく、適切な管理をしないと錆びやすいのが課題です。炭素鋼の合わせ包丁は特に腐食しやすいため注意が必要ですが、たまにしか使わないため、使いたいときには錆びてしまっているケースも少なくありません。
こうした点を考慮すると、今後はステンレス製の和包丁が主流になっていくと考えられます。