【検証 味くらべ】 ハガネvsステンレス
包丁の素材として代表的な「ハガネ」と「ステンレス」。
切れ味や研ぎやすさにおいてはハガネが優れていることは、包丁に詳しい方であればご存知の通りです。
一方で、錆びにくさや手入れのしやすさという点ではステンレスに軍配が上がり、現在の流通量や生産量の多さがそれを裏付けています。
※ここでいう「ハガネ」とは、鉄に炭素を加えた「炭素鋼」を指します。
■ では、「味」への影響はどうなのか?
包丁はハサミやノコギリと違い、「食材を切る」ための道具。つまり、単に切れればいいというものではありません。
とはいえ、刃物の製造現場では「味への影響」にまで言及することは稀です。私自身も、普段は刃の状態を新聞紙で試し切りして判断する程度で、食材で切れ味を試すことはあまりありません。
包丁業界では製造や販売に携わる人の多くが男性であり、実際に料理をしないという方も少なくありません。SNSでは料理人による包丁への深い知見が発信されることもありますが、料理と包丁を両輪で捉えるような情報発信は業界内では非常に少ないのが現状です。
だからこそ、「使う側の目線」で試してみることに意味があると思い、家庭料理の中で味の違いを体感しながら検証を重ねています。
■ ステンレスとハガネ、どちらが美味しく感じられるか?
実はこの問いにも、一部の専門家がプロの料理人を交えて実食とフードセンサーによる検証を行っており、「一般的にはハガネのほうが美味しい」という結論が導き出されています。
しかし、人の味覚は千差万別。十人いれば十通りの感じ方があります。
そこで今回は、より「実際の食卓に近い感覚」で違いを確かめるため、簡単な比較テストを行ってみました。

■ 検証内容とその結果
使用した食材は、スーパーで購入した中トロとサーモンの刺し身。
使用した包丁は、
- ステンレスの全鋼柳刃包丁
- ハガネの合わせ柳刃包丁
の2本です。
調理と試食の様子は動画でご覧いただけますが、実はこの比較の前日にも、別のスーパーで購入したサーモンを使って同様の検証を行っていました。
そして驚いたことに、「ハガネの方が美味しい」という通説を覆す結果となったのです。
試食したのは私と妻の二人。どちらも迷いなく、「ステンレスの包丁で切ったサーモンのほうが、まろやかで美味しく感じた」と答えました。
つまり、理屈では「ハガネが美味しい」はずなのに、実際の味覚ではステンレスが勝っていたのです。
■ なぜステンレスが勝ったのか?
たった一度の結果で結論づけることはできませんが、サーモンには特有の風味やクセがあります。
もしかすると、ステンレスに備わる微弱な消臭効果によって、そのクセが和らぎ、旨味だけが引き立ったのかもしれません。
この結果が偶然なのか、それとも特定の食材に対する明確な傾向なのかを探るため、翌日も別の刺し身で再検証を行いました。
翌日は改めて、別のスーパーで購入したサーモンとマグロの中トロを使って、再度ハガネとステンレスの味比べを行いました。
■ 再検証の目的と予想
今回の再検証では、
- サーモン(再検証)
- 中トロ(新規検証)
の2種類をそれぞれ皿の両端に分けて盛り付け、どちらの包丁で切ったかを比較試食しました。
前回の結果を踏まえると、
- クセのあるサーモン → ステンレスが有利?
- クセの少ない中トロ → ハガネが有利?
という予想が立ちました。
■ 実際の結果
ところが、結果は予想と異なるものでした。
- サーモン → 妻は迷わず「ハガネが美味しい」と即答。
- 中トロ → こちらもハガネに軍配。
筆者(私)もそれぞれ5切れほど食べ比べてみましたが、正直、サーモンについては「ステンレスも悪くないのでは…?」と感じる場面があり、甲乙つけがたい印象。一方、中トロについてはハガネの旨味の引き立ちが明確だったように感じました。
■ なぜ今回の結果は違ったのか?
この結果を受けて、いくつかの要因が思い浮かびます。
- 購入したスーパーの違い:
前回は鮮魚の評判があまり良くないスーパーのもので、特にサーモンに独特のクセが感じられました。
今回は比較的リーズナブルながら、品数が多く鮮度に定評のあるスーパーで購入。 - 魚の質:
今回のサーモンはクセが少なく、前回のように「ステンレスの消臭効果」が優位になる状況がそもそもなかったのではと推測されます。 - ハガネの引き出す香りと旨味:
特に中トロはその脂や香りをしっかり感じたい魚。ハガネの鋭い切れ味が、素材のポテンシャルをより引き出したとも考えられます。
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